大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台家庭裁判所 昭和32年(家イ)98号 審判 1957年3月16日

本籍 北海道 住所 仙台市

申立人 本田明子(仮名)

国籍 アメリカ合衆国テネシー州 住所 同じ

相手方 バーノン・イー・モーア(仮名)

主文

一、申立人と相手方は本日離婚する。

二、相手方は申立人に対し、慰藉料として昭和三十二年四月十日、金参百ドル(邦貨換算拾万八千円)を支払え。

三、相手方は申立人に対し、昭和三十二年三月三十一日仙台市○町○○○字○○○南○○○番地所在木造瓦葺平家壱棟建坪拾弐坪の内居室六畳一間を明渡せ。

理由

申立人の昭和三十二年三月十四日の調停に於て述べた離婚調停申立の要旨は、申立人と相手方は、一九五六年八月○○日東京都に於て婚姻し、昭和三十一年九月より肩書地に居住している。

申立人と相手方は、婚姻届出で前、約六ヶ月間同棲したが、婚姻届後相手方は、申立人に対し、軽蔑的態度であつた。そして申立人に不貞の事実が絶対にないのに、最近は申立人の貞操を疑い、申立人の言を信ぜず、家庭内に於ては勿論一緒に外出した際他人の面前において、申立人を卑下し、不貞者であるから妻としての資格がないと、悔辱的言辞を用いるので、その態度に耐え難く、精神的に多大の苦痛を受け、到底妻として共同生活を継続するに忍びない。従つて相手方は本年六月○○日帰米の予定であるが、その際は申立人は絶対同行する意思はなく、又既に居住家屋内に於ても、室を分ち生活している現状であるから、あくまで離婚を要求する。若し離婚が成立しなければ死んだ方がましだと考えている。そして慰藉料五百ドルの支払と、なお申立人の借りた家屋であるから、相手方使用の居室六畳一間の明渡を求めるため、本件調停の申立におよんだというのである。

相手方は申立人陳述の通り、婚姻の事実、並に申立人の家屋中六最間一室に居住している事実を認め、なお婚姻後、申立人が述べたような事情もあつて、精神的に親しめない傾向が強い。けれども、自ら進んで離婚の意思はないが、申立人があくまで離婚を要求するから、離婚に同意する。然し、慰藉料については貯金もないので、米国在住の父母に報告し、援助を求め、送金を受けた上、金参百ドルを支払うが五百ドルの要求には応じない。又離婚と法定すれば居室(六畳間)一間は、本年三月三十一日限り明渡すことは異存がない旨述べた。

依て更に本日当事者双方に調停を試みたが、慰藉料について結局意見が折り合わず、妥協ができないので、調停は不成立となつた。

然し当事者双方は、裁判所において、双方のため一切の事情を観て、公平に考慮し、審判によつて、総ての点について判断し決定されることには、苦情はない旨附加陳述した。

依て当裁判所は調停委員の意見を聴き職権により審案するに、離婚の合意、居住家屋中居室(六畳間)一間明渡については、当事者双方に争がないから、先づ申立人が離婚調停申立の事由とする婚姻を継続し離い侮辱を受けたか否かに関し考察するに、当事者は国際結婚であり、生活感情、夫婦愛など同国人同志の間柄と異つて、意思が疎通せず、性格的にも五に夫婦としての愛情、態度に若干欠く処が看取し得るし、且婚姻に当つて慎重の態度が足らず、婚姻が安易に行われた事情が多少紛議の素因をなしていることが推知し得る。従つて相手方が申立人の素行に関し懐疑的となり、相手方が申立人に対し、公然と不貞の行為者として妻の資格がない旨軽蔑の言辞を弄し、侮辱的態度を採つた結果、申立人は精神的に多大の打撃を受け、その環境に耐え難く、到底妻として共同生活を継続するに忍びず、離別の余儀なきに至らしめたもので、申立人は若しこの儘生活が続くなら死んだ方がましだと焦慮するに至つた。なお相手方が帰米の際は、断じて同行しないと強く主張し、離婚を求めるのであるから、夫婦間にこれ以上の紛議を重ねることを避け、比の際離婚することが当事者双方のためであると認めることができる。

次に慰藉料額について観察するに、相手方は仙台駐留○○聯隊に軍曹として勤務し、基本給として一ヶ月「二〇二、八〇ドル」の支給を受けて生活していることは、記録添付の相手方所属部隊司令官○○○○氏の証明書によつて明かであり、外に収入はなく、又貯金もなく、米国居住の父母に援助を受ける他に方法がない。又申立人との夫婦生活の期間、要に申立人の地位、生活環境、それに相手方が本年六月○○日帰米の予定である等諸般の事情を綜合考覈すると慰藉料額を「三百ドル」とすることが相当であると認める。

更に当事者の離婚原因が、相手方の本国法において適法であるか否かを観察するに、テネシー州法中離婚原因に関する法規を参照した結果、同法規には離婚原因中、夫婦の一方が、「妻の退去を余儀なくさせるような侮辱を夫が妻に与える場合」は、離婚の原因と定めてあるので、前記申立人の主張する離婚事由による離婚の要求は、正当の理由である。

なお、かかる離婚原因が、日本国民法に於て離婚事由に該当するか否かを考察するに、同民法第七百七十条第一項第五号には、離婚原因として夫婦の一方に「婚姻を継続し難い重大な事由があるときは」と定めてある。従つて申立人の離婚要求の事由は右の規定に該当するものと解するを正当と認めるので、本件離婚事由は相手方本国法及び日本国民法によつて認容される適法のものである。

依てアメリカ合衆国テネシー州法中、離婚に関する法律、および日本国民法第七百七十条第一項第五号、同法例第十六条、同家事審判法第二十四条に則り主文の通り審判する。

(家事審判官 三森武雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例